「病院への”火炎瓶”投げ入れ事件をとらえて」

「病院への火炎瓶投げ込み事件をとらえて」

~常識の通用しないモンスターにどう向き合うか~

■八王子市内の病院に“火炎瓶”が投げ込まれた事件で、47歳の男が逮捕されました。犯人は形成外科に通院していて、病院の対応に度々クレームをつけていたという。

常識の通用しないモンスターにどう向き合えばいいのか。医療現場の悩みは深まるばかりである。

さて、不安な社会を反映し、いまや、「クレーマー」は日常語として定着し、「モンスター」という言い回しも違和感なく使われるようになった。「モンスターペアレント」や「モンスターペイシェント」は、その先駆けといえる。

モンスターペイシェントは、病医院に対して無理難題を突きつけたり、医療従事者に暴力を振るったりする、患者やその家族である。

彼らは、モンスターの名にふさわしく傍若無人な振る舞いをするが、その心の奥底には強烈な思い入れのあることが多い。

モンスターペイシェントには、自分や家族の健康・生命への渇望があり、それが満たされないと、些細なきっかけで怒りを爆発させる。

もうひとつ、モンスター社会の大きな原因の一つとして、サービスの問題がある。一般にサービスを受ける側は大変な恩恵を受けられるが、反対に、サービスを提供する側は時間に追われ、従来の何倍もストレスが溜まるのは当たり前の現象ともいえる。

医療機関も、昔と立場が変わってサービスが重要視されるようになった。

現代社会においては、サービスを受ける側は便利さに慣れているため、待たされることを許容できないなど、我慢の利かない人間が増えている。

サービスを提供する側がCS(患者満足)を追求すれば不満も増える。便利な世の中になるほど、不満を感じる人が増えるという図式は、現代社会の歪みといえる。

モンスターペイシェントも、普通の人も、怒りを爆発させて突発的に引き起こす凶悪事件の根本原因は同じ「社会変化に意識の変化が追いつかない」ことではないかと考えられる。

近年は誰もが予測できない凶悪事件の被害者や、モンスターの餌食になる可能性が高まっている。すなわち、犯罪者やモンスターと普通の人とを隔てるグレーゾーンが拡大

し、危険な人物の見極めが難しいハイリスク時代を迎えたのである。

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こうした社会情勢の中で、クレーム対応の担当者が置かれている状況はことのほか厳しい。なぜなら、攻撃できるのはクレーマーで、対応側は専守防衛だからである。

一般にマスコミの論調や世論は、企業や行政機関、病院、学校などの「組織」に対してアゲインストで、ひとたび問題が生じればいっせいにバッシングに走る傾向が強い。また、組織は社会性や公共性を意識している分、弱腰にならざるを得ない。

その反面、「個人」はモンスターと呼べる輩であっても、消費者、患者、生徒という「弱者」のレッテルが貼られている。

そこにインターネットやSNSの登場によって、個人は強力な情報発信の手段を手に入れ、以前とは比べものにならない圧力を組織にかけることができるようになった。

医療機関の対応が気に入らなければ、それを世界に向けて発信し、不満を持った者同士が連携できる。いわば、「腕力の強い弱者」の誕生だ。

さらに恐ろしいのは、クレーム対応を誤ると、苦情を訴えた本人からそっぽを向かれるだけでなく、一瞬にして不特定多数の人々にマイナス情報が拡大してしまうことである。インターネットという「便利で厄介なもの」により、医療機関のリスクは大幅にアップした。

「インターネットで流すぞ!」という脅し文句には相当の威圧感を感じるはずです。

「私は客(お金を払っている患者)だ!」「そんな対応じゃ納得でない!」患者満足を逆手にとって一歩も引かない構えを崩そうとはしない。

相手が理不尽だからといって「倍返し」とはいかないし、対応を誤ればインターネットで「何万倍返し」されるか分からない。

さらに相手にはあり余る時間があり、対応する側は常に業務に追われ時間がない「超ハンディキャップ戦」なのである。

しかし、クレーマーは十人十色、その目的や動機も千差万別。 そもそも、クレーマーが抱える不安や不満――心の闇――に対して完璧な対応をしようとするのは無理である。

要するに、クレームの現場は常識(正論)だけで片付くものではくマニュアルも役に立たない。

現状に100%満足している人は、まずいません。多かれ少なかれ、自分の将来について不安を感じていたり、社会や組織、人間関係に不満を抱いていたりするはずです。それが怒りや嫉妬といった負の感情と結びつくと、やがて心のタガが外れてしまう。

モンスターというと、その言葉の響きから極悪人を連想するかもしれませんが、いま日本列島を席巻しているモンスターのほとんどが、もともとは善良な一般市民なのです。私は、彼らを「ホワイトモンスター」と呼んでいます。

 これまで述べてきたモンスターの「生態」からもわかるように、巷にあふれるトラブルの多くはホワイトモンスターによって引き起こされています。

 ホワイトモンスターは、ホワイトな心を根にもちながらも、負の感情(不安)にとらわれて社会をグレーに染め上げているのです。いまや、「闇社会」の主役はホワイトモンスターなのです。

こうした状況は、今後ますます深刻化するでしょう。なぜなら、ネット環境が身近になればなるほど、「ネットモンスター」が増えたように、社会の変化に乗じた新たな“色”のモンスターが誕生するからです。

それは、対応する担当者の僅かなミスも許さない“受難の時代”の到来を意味します。